美術館

中小企業診断士という仕事をしていると、事業計画書の作成など経営者や社員のみなさんが考えていることを「言語化する」という場面が数多くあります。

関係者に説明する、社員やスタッフと意思疎通を図る、お客様に商品の魅力や思いを届けるなど、ご商売をしていて「言語化する」ことはとても大切です。わたしも仕事としてそのお手伝いを毎日行っています。

・・・と普通のコンサルタントならば、ここで「言語化する」ことのノウハウや事例を紹介すると思いますが、そう進まないのがこのコラム。普段やっていることと矛盾しますが、正直なところ、世の中には「言語化」できないからこそ面白いものが沢山あると思っています。

タイトルにした「美術館」はその最たるもので、ふだん言語化の手伝いを数多く行っている反動なのか、最近は絵・音楽・芸術・自然といたものを愛でる時間が貴重なことに感じられます(年をとったもんです)。先日もちょうど会議が善光寺の近くで行われたので、新しくなった長野県立美術館に行ってきました。

もっとも、とくに美術に造詣がある訳でもなく、ぼーっと絵を見ているだけなので偉そうなことはいえません(^-^;ただ、絵を描くことで言語化できないことを伝えられるって面白いし、仕事にも生かせないだろうか、と思った秋の一日でした。

長野県は日本一美術館が多くあるそうです。芸術の秋ですし、ちょっと仕事のことを忘れて芸術に触れてみるのもよいかもしれません。

意外と深い「だれに、なにを、どのように」

※「商工連ながの8月号」に掲載していただいた内容です

「『だれに、なにを、どのように』なんて、そんな基本的なことはワンポイントアドバイスされなくてもいい!」と怒られてしまいそうですが、あえてこのタイトルにさせていただきました。そのくらい最近この「基本的なこと」が大切であり、意外と深いと思える機会が数多くあるためです。

 言わずと知れた「だれに、なにを、どのように」は、いわゆるマーケティングの根幹になるポイントを説明した言葉です。事業を進めるうえではもちろん、事業計画書の作成や補助金申請でも記載を求められることがあるため、意識している経営者や支援機関の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?経済産業省が発表している「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」においても、重要な着眼点として取り上げられています。

 しかし日々の経営相談や支援の場で話をしていると「表面的な意味」でしか受け取られていないと感じることが多々あります。たとえば先日ご支援したお蕎麦屋さんのケース。ご主人は「だれに、なにを、どのように」というポイントは知っていたのですが「そりゃぁ内山さん、うちは蕎麦屋だから、美味しいそばを・観光客と地元の人に・店に来てもらって提供しているのよ」で話が完結してしまいました。間違いではありませんが、本当にそうでしょうか?観光客や地元の人はなぜこの店を選んだのか。場所がよかったから?美味いと評判だったから?美味い蕎麦ならなぜ美味いのか?店からの景観は関係ないだろうか?実は提供方法に特徴があるのか?リピーターになっている方はなぜリピートしているのか?…といった具合に、深く考えていくと、単純に蕎麦という食べ物だけを売っている訳ではないことに気づけると思います。

 「だれに、なにを、どのように」を考える際の着眼点を私なりにまとめてみたのが下の図です。表面的な意味だけで考えると単なる事実確認になってしまって、なぜ好調なのか、なぜ不調なのかといった大切なポイントに辿り着けません。一歩進んで「潜在的な意味」まで深堀してみると、正確な現状分析や「本当の意味で事業者さんが提供している価値」の発見につなげることができます。そうした価値を見つけ出して言語化し、経営者の思いや外部環境と掛け合わせてこそ、事業計画を考えるときに必要となる「強み×機会」を探し出すことにつながるのではないでしょうか。

 限られた時間と人と資金で結果を出さなければならない経営者にとって、「だれに、なにを、どうやって」を点検しておくことは、日々の経営判断のスピードアップ、取り組む事業の優先順位付けにも役立ちます。言語化しておいた「価値」は販路拡大に用いるツール(ちらし、Webサイト、パンフレット)の主要な要素になるでしょう。新しい事業を考える際も、自社の価値の源泉を正確に把握していることは大きなプラスになります。

 とはいえ、誰もが「自分(自社)の良いところを話してください」と言われても説明しにくいように、良いところを探すということは一人で考え込むだけでは気づきにくいものです。まして現在のような先が読めない環境においてはなおさらかと思います。こんな時こそ官民問わず支援機関と連携し、この難局を乗り越えていければと思いますし、私も微力ながらその一翼を担えればと考えています

目を閉じてトイレに行くことはできますか

「誰のためのトイレなのか」
「見た目がいいトイレであっても、体の不自由な人に使い勝手の悪いトイレは自己満足」
「『人を思うこと』のできない商品に存在価値はない」
「うんこの会社に入れ」!!!

先月いちばん興味深く読ませていただいたのが、TOTO元社長の木瀬照雄さんの私の履歴書(日本経済新聞に掲載)でした。毎回「えっ?」と思う書き出しで目を引き、軽快な文章だったこともあり楽しく読ませていただきました。

「目を閉じてトイレに行くことはできますか」もその書き出しのひとつでした。文章はその後こう続きます。
・自宅ならば大丈夫だろう
・駅やオフィスはどうだろうか
・男性用や女性用はどう区別するのか
・トイレットペーパーはどこにあるのか、手洗い場はどこにあるのか
・私には目を閉じて初めて使うトイレの壁をペタペタ触る勇気はない

木瀬さんという方はTOTOをグローバル企業にした立役者の一人だそうで、営業部門の最前線で活躍されていた方だそうです。当然ながら私が想像もできないくらい厳しくスケールの大きな環境のなかでバリバリ仕事をしていたであろうに、こうした着眼点をもって仕事に向かい続けていた人がいること、そして(私が無知なだけかもしれませんが)世間一般で知られている物凄い経済界の有名人とか目立っている人という訳ではないことが、なんとも考えさせるものがありました。もっともTOTOのCMにはちょい役でしばしば出演されていたようですが(^-^;

同時に、トイレのような誰にでも必要なもの、人の尊厳に関わるもの、社会の根っこを支えているものに目を向けること、そうした仕事の尊さや携わっている人々がいることを意識することの大切さにも気づかされた6月でした。

※余談ですが、日経新聞の文化面は毎回かなりマニアックな記事が高頻度で掲載されていておススメです。マニアックすぎて追いつけないものも多数あります。

※写真および冒頭「」内:日本経済新聞「私の履歴書」より引用

ワーケーションと木のパズル

八ヶ岳山麓のホテルで見つけた「小黒三郎パズルコレクション」というパズル。
ちょっとしかきっかけもあり、たまにはワーケーションさながらにホテルで事務作業をしよう!と思っていろいろ準備して行ったのですが、この奥深きパズルで完全に仕事ができませんでした(*´Д`)

とくに普段の生活ではパズルをやらないのですが、子供のころ家族で旅した宿にも置いてあった記憶もあり、つい手が伸びてしまいました。

このパズルは積み木を使ってシルエットの形を作るという極めてシンプルなものなのですが、写真でいうと斜めになっている積み木がなかなかクセ者で、裏っ返したり、くるくる回したり、近くから見たり遠くから見たり・・・37歳にして振り回されました。

パズルから学んだことがあります。それは次の2点です
「闇雲に進めてもダメで、試行錯誤するにしても全体をイメージしてから取り掛かること」
「一番厄介なくせ者パーツを活かすことが、思いもよらない形をつくれること」

ちょっと仕事にも通じることがあるかな…と思ったのでコラムにしてみました。こじつけですかね!?ごめんなさい。普段とは違う脳みそを使ったひと時でした。

事業再構築について

『ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するための企業の思い切った事業再構築を支援!』

と打ち出された経済産業省の目玉事業「事業再構築補助金」の影響もあり、多くの方々が「自社の事業再構築ってどうすればよいのだろうか!?」と考える時間を持たれたと思います。第1回目の締切日には申請が殺到してサーバがダウンするほどの反響で、私自身もこの1カ月は本当に多くのご相談に対応させていただきました。

……タイトルで「事業再構築について」と「補助金」の3文字を抜いたとおり、このコラムでは補助金の話を抜きにして、新規事業を実施するにあたり押さえるポイントについて1点だけ触れたいと思います。


それは「で、だれがやるの?」ということ、つまり担当や役割分担が明確になっているか、そこにムリはないか、ということです。

これまで(深い浅いはありますが)様々な新規事業や創業に携わらせていただきましたが、成功するかしないか以前の話として、計画が進むか進まないかを左右するのが「で、だれがやるの?」という点でした。さらに言うと

  ・だれが

  ・いつまでに

  ・なにを

  ・どんな状態にする

が明確になっているかどうか(当事者の目線がそろっているかどうか)で、進むか進まないかが分かれると思います。

新しい事業を考えるときに「目指す姿の明確化」「強み×機会」「自社の歴史×潮流(トレンド)」はもちろん大切ですし、考えていて楽しいのですが、「だれが、いつまでに、なにを、どんな状態にする」という地味な内容も押さえておかないと、そもそも事業が進まず計画が良かったのか悪かったのか判断すらできません。

事業再構築補助金の計画書にも後半に「実施体制、スケジュール」を明確にするよう書いてあります。「だれが」を明示しろとは書いてませんが、補助金の採択に関わらず必ず必要になることなのでぜひ思い描いていただき、地域の関係者みなで協力し、何とかしてこの難局を乗り越えたいものです。

それではまた。

数字と台湾パイナップル

「台湾、パイン問題の『果実』」


3月18日の日本経済新聞にこんなタイトルの記事が出ていました。
ちょっと興味深い記事だったので紹介します。

台湾パイン問題といえば、ざっくり説明するとこんな話です。
・今年3月から中国が害虫問題を理由に台湾産のパイナップルの輸入を全面的に停止
・台湾産パインの輸出先の9割は中国
・これに対して台湾は「言いがかりだ、中国には屈しない」と主張。台湾国内や海外でも買い支えムードが広がり、日本などにも支援の輪が広がり新規輸出増、友好ムードが醸成された

この話は様々なメディアで報道されていたので、ご存じの方もいらっしゃると思います。かくいう私も「そうなんだなぁ。台湾のパイナップルを買ってみようかな」くらいの理解でした。

ただこの記事はこう続きます
・台湾の農業委員会によると昨年の台湾パイナップルの生産量は40万トン強
・その大半の9割は台湾国内で消費
・残りの1割だけが輸出され、その1割の中の9割を中国が占めていたというもの
・昨年の台湾の中国向け輸出は過去最高の1514億ドル(そのうちパイナップルは0.03%)

あれ?って気持ちになりますよね。

もちろん厳密にいえば、この記事に用いられている数字の裏も調べる必要があるのですが、他のメディアから聞こえる報道とのギャップというか、数字の面白いところというか、表現の難しさというか、いろいろ考えさせてくれる記事でした。

数字をつかうと説得力が増しますが、見せ方ひとつで印象もガラッと変わります。
時に我々を冷静にさせてくれますが、時に大いなる勘違いを誘発します。
数字と仲良く、上手に付き合っていきたいと思う今日この頃でした。

・・・そうこうしていたらパイナップルが食べたくなってきました(笑)
それではまた。




平凡主義

補助金申請や経営相談の窓口で

「目指す会社の姿はどんな状態ですか」
「経営理念はありますか」
「ビジョンはどういったものですか」

といった質問をうけたことのある経営者や起業家の方は多いと思います。とても大切なことですし、実際に私も相談の現場でなんどもお伺いしているのですが…

開業するにあたり、こと「自分ごと」として考えると、とても難しい質問でした(*´Д`)

散々悩んだ挙句に、たどり着いたこの「平凡主義」という言葉。
実はこれ、巡り巡って、母校の理念から拝借させてもらったものです。

母校のホームページにはこのように書いてあります(抜粋)↓

【大平凡主義という理念】
本校は~その校風として必ず取り上げられる言葉に「大平凡主義」があります。これは、初代校長の滝沢又市先生が生徒に話された「平凡主義」という言葉が、時代とともに「大平凡主義」という言葉になって現在に伝えられています。「大平凡」とは、平凡であることを大切にする、平凡であることの価値を認めて大切にする、言い換えれば当たり前のことを大事にして、一日一日を大切にすることです。
(神奈川県立横浜翠嵐高校のホームページより)

高校生の頃は「なんか固いこと言っているなぁ」と思って、友人と茶化していたものです。

しかし事務所を開業するにあたり、仕事をするうえで大切にしてきたこと、凄いと感じた先輩や上司や出会ってきた経営者の方々、反対に嫌だなぁとか、痛い目にあった思い出とか、こういう風になりたくないなぁと思った出来事=自分の歴史を振り返ってみて、たどり着いた指針が母校の「平凡主義」でした。

「相談の時に相手に助言させていただくことは、自分でも実践する」
平凡というか当り前ですが、こうしたこともキッチリおこなう事務所であろうと思います。

ずいぶんオッサンっぽい文章を書くようになってしまった自分に悲哀を感じつつ、これから頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

みすゞ中小企業診断士事務所
内山 拓己