「相談窓口 よくあるお悩み相談トップ10」#7 「従業員が定着しない」への対応方法とは

中小企業診断士の内山です。起業家や経営者の皆さんが訪れる「相談窓口」。みなさんどんな悩みを抱えているのでしょうか?

このコラムでは、中小企業診断士に寄せられる「よくあるお悩み相談」を10位から順番にご紹介しながら、一般的な対応方法についてもご紹介しています。

第4位は…「従業員が定着しない」です!

昨今の人手不足問題もあり、社員を雇用している経営者さんに限れば第1位といっても過言ではないお悩みです。

残された従業員への影響も大きい、「退職」の問題

「せっかく入社したのに3ヵ月で辞めちゃった」

「やっと仕事を覚えてくれたと思ったら退職したいと言われた」

・・・つらいですね。従業員の退職は経営者だけでなく、関わりのあった従業員にとってもつらいものです。業務レベルでも人手が減って困りますし、精神的にも前向きなものではありません。採用するためにお金をかけていたらなおさらです。

さらに加えて、最近では大手企業が「初任給30万円!」といった数字を提示しており、もはや小規模事業者では太刀打ちできない気持ちでいっぱいになってしまいます。

ところが、小規模事業者であっても社員が集まる会社、実は定着している会社というのは少なからずあります。私が日常で関わっている伊那谷エリアでも複数社あります。

これはいったいどういうことなのでしょう?

「内発的動機付け」にも目を向けてみよう

社員が集まる会社、定着している会社に共通して言えることは、社員が成長を感じられたりモチベーションを維持できる工夫をなにかしら実施しています。少し難しい言い方をすると、「内発的動機付け」に繋がる仕掛けをちゃんと整えています。

「内発的動機付け」って初めて聞く方もいらっしゃるかもしれません。動機付け≒モチベーション向上といった意味ですが、動機付けは外発的なものと内発的なもの2種類に分類できると言われています。一般的なものを次の表に整理します。

上の表の通り、内発的動機付けは満足をもたらす要因、外発的動機付けは不満をもたらす要因と言われています。多くの場合、「社員が定着しない!」という悩みについて話す時は右側の外発的動機付けの内容に目がいってしまうのですが、左側の内発的動機付けにいても目を向ける必要があります。

 ちょっと想像してみてください。なぜ比較的給料が高く安定している大企業や公務員の職を辞して、中小企業やベンチャー企業に行く人が一定数いるのでしょうか?また昨今の人手不足の中、より高い給与を支給してくれる会社があるのに、なぜ転職をしないで働き続けてくれる人がいるのでしょうか?

勤務地や人間関係がよいという給与以外の外発的動機付けに関するポイントもありますし、多かれ少なかれ、やりがい、達成感、満足感といった内発的動機付けに関するポイントが影響していると考えられますよね?

つまり外発的動機付けと内発的動機付けの「両方が大切」であり、給与や待遇でものすごい好条件がだせないのならば、せめて内発的動機付けに関するポイントを押さえたアクションを起こすことが大切ということです。

ビジョンを語り、「スキルマップ」を作ってみる

「では具体的にどうすればいいの?」という手段については、個々の会社の事情によって様々にあります。採用→定着→育成→管理職への育成というステップの中でどこに問題があるのかといった点でも異なったりしますが、今回は比較的導入しやすく、簡単な人事評価などにも活用できるスキルマップという道具をご紹介します。

スキルマップとは上の図のように、縦軸に社員の名前(他の人の評価は見えないようにしてもOK)、横軸に社員に身に着けてもらいたいスキルを書いて、スキルのレベルを社員本人と上司で確認し合うというものです。

 確認のレベルは、たとえば6段階評価にする場合は

レベル5:ほかの社員を指導できる

  レベル4:ほかの社員をサポートできる

 レベル3:一人で対応できる

 レベル2:サポートがあれば対応できる

 レベル1:やったことはある

 レベル0:未経験

と言った具合で各項目を評価していくものです。

このスキルマップの良いところは、新入社員にとっては「どうすれば1人前なのか」「会社が自分に求めていることは何か」がある程度見える化されるところにあります。経営者の立場からは「こういうスキルを身に着けてほしい!」というメッセージなので、会社の「ビジョン」を語るきっかけにもなります。

もともとは社員の育成を推進するための道具であり、「成長を見える化する」という観点でも内発的動機付けに貢献する道具なのですが、社員と上司のコミュニケーションツールというポイントでも効果を発揮します。

最初に項目を揃えるところが少し手間ですが、それさえ乗り切れば、半年に1回や1年に1回の個別面談の場で見直し「半年前よりも今、今よりも半年後」と言った具合にレベルアップを感じられる道具となるはず。人材育成や採用について対策をする第一歩の道具としてお勧めすることが多いです。

いかがでしたでしょうか?次回のテーマは「情報発信したい!」です。いよいよトップ3にはいります。お楽しみに。

「相談窓口 よくあるお悩み相談トップ10」#6 お金を払うのが難しくなりそう

中小企業診断士の内山です。起業家や経営者の皆さんが訪れる「相談窓口」。みなさんどんな悩みを抱えているのでしょうか?

このコラムでは、中小企業診断士に寄せられる「よくあるお悩み」を相談トップ10として、10位から順番にご紹介しながら、一般的な対応方法についてもご紹介しています。

第5位は…「お金を払うのが難しくなりそう」です!

とても深刻なテーマですね。具体的にはいったいどのような相談内容になるのでしょうか?

「お金を払うのが難しくなりそう」って、どういう状態?

当たり前ですが、お金の流れは「入」か「出」の2種類しかありません。お金を払うのが難しいということは、「入」よりも「出」が多い状態が続いて、いよいよ手元のお金が足りなくなってしまった状態のことを言います。

材料の仕入れ、社員の給料、水道光熱費、家賃、税金、借入金の返済など、お金が出ていく場面は沢山あります。一方でお金が入ってくる場面は、補助金や借り入れなどによる資金調達を除いて、基本的には売上高の入金くらいしかありません。つまり売り上げが不足する状態が何ヶ月も続けば、当然のことながら手元のお金は足りなくなってしまいます。

言われてみれば当たり前のことなのですが、なぜこのような相談が絶えないのでしょうか?

肝心なことは「早期発見、早期対応」

ひとつポイントになるのは「決算書や月次収支は過去の結果しかわからない、未来の資金繰りは意志をもって自分で考えないと把握できない」という点です。決算書や月次収支(試算表など)を確認することは大切ですが、これらは過去の結果であり、漠然と眺めていても未来のことは読み取れません。健康診断の結果をいくら眺めていても健康にならないのと同じです。

健康診断の結果を見て「体重が増えているな」「この数値が悪化しているな」と気づいたら相談して対応策を考え実行する必要があるのと同様に、ビジネスにおいても「現預金が減っているな」「赤字が続いているな」と気づいたら対応策を考えて実行する必要があります。

どちらも共通しているのは「そのまま放置すると後で取り返しのつかない状態になることがある」という点です。健康管理でもビジネスでも、早期発見、早期対応が肝心になります。

一番良くないのは「一人で抱え込んで誰にも相談しないこと」

この「お金を払うのが難しくなりそう」という相談ですが、意外なことに、毎月キチンと収支を確認している方でも、追い込まれた状態で相談にいらっしゃることが多々あります。

 「なんでもっと早く相談に来てもらえなかったのだろう?」

 「1年前に来てもらえれば、まだ対応策が沢山あったのになぁ」

 そのたびにこんな感想を持ってしまうのですが、相談者の中には「大切なお取引先や給与への支払いを滞らせるわけにはいかない」「金融機関にはお世話になっているから返済を遅らせるわけにはいかない」という思いが強く、個人の貯蓄や生活費で穴埋めをしたり、自分の給料をゼロにして何ヶ月もしのいだりしている方が一定数いらっしゃるのです。こうした対応は根治療に繋がらないため、かならず販路拡大やコスト削減といった「出口戦略の策定と実行」をセットで行う必要があります。また出口戦略を策定することで、金融機関も借入金の一時的な返済猶予などに応じてくれる場合もあります。

出口戦略を考えずに自己資金を投入し続けるのは、止血をせずに輸血を始めるようなものです。しかしながら、そうした根治療に繋がる動きを取らずに、2年も3年も苦しい状態を続けて状況を悪化させてしまう相談者さんは少なくありません。

 長い目で見れば、こうした状態は自分だけでなく、突然の倒産などに繋がり取引先もお客さんも不幸になります。きちんとした計画を立てて誠意をもって実行すれば、いまの時代は金融機関もキチンと話を聞いてくれます。相談窓口も沢山あります。早ければ早いほど選択肢は沢山あります。

「最近現預金の残高が減ってきたな」「最近資金繰りが大変になってきたな」と感じたら、一人で悩まず、ぜひ早めに相談してもらえたらと思います。

 いかがでしたでしょうか?次回のテーマは「従業員が定着しない」です。人手不足の問題もあり急速に増加している相談テーマになります。お楽しみに。

「相談窓口 よくあるお悩み相談トップ10」#5 補助金を活用したい

中小企業診断士の内山です。起業家や経営者の皆さんが訪れる「相談窓口」。みなさんどんな悩みを抱えているのでしょうか?
このコラムでは、中小企業診断士に寄せられる「よくあるお悩み」を相談トップ10として、10位から順番にご紹介しながら、一般的な対応方法についてもご紹介しています。

第6位は…「補助金を活用したい」です!
「隣のA社は補助金を活用して新しい機械を購入したらしい」
「取引先のB社は補助金を活用して新しい事業を始めたらしい」
「うちの会社も何か使える補助金はないかな?」

上手に活用している経営者がいる一方で、「こんなはずじゃなかった」という事態も起きています。今回のコラムでは、どの補助金でも共通する活用のポイントや、よくある誤解についても紹介したいと思います。

知っていますか?補助金・助成金・給付金の違

使い道に応じて、行政や団体等から資金補助を受ける「補助金」。似たような言葉で、助成金や給付金がありますが、それぞれの違いは意外と理解されていないかもしれません。特徴を表に示してみましたので、ぜひ以下をご参照ください。

補助金が、他の支援金と最も異なる点は「採択される必要がある」という点です。よく経営者のみなさんからも「久しぶりに受験生のような気分を味わった」と聞きますが、発表されるまでドキドキしながら待たなくてはいけません。

また採択発表があるということは「スケジュールが読めない、読みにくい」という点も注意点が必要です。いつ採択結果が発表になるか、もっと言えばいつ公募が開始になるかがが読みにくいので、自社の資金繰りで振り回されてしまう方も数多くいらっしゃいます。

注意点は大きく2つ!「入金まで時間がかかる」「交付決定前に購入してはいけない」

では、次にフロー図を見ながら補助金の注意点についてお伝えします。

下図は、経済産業省が扱っている一般的な補助金の一つ「ものづくり補助金」の申請~補助金支払いまでの流れを示したものです。

④番~⑨番までを注目してもらえればわかりますが、採択(補助金交付候補者決定)されてからも交付申請・交付決定、補助事業実施、実績報告、確定検査というステップを経て事務局からOKをもらわないと口座にお金が振り込まれません

その間は自己資金か金融機関から借りるなどして立て替える必要がありますし、事務局と書類不備に関する対応なども頻繁に行われるため、口座にお金が振り込まれるまでに半年~1年近くかかることも多々あります。

 また採択されても⑤交付申請・交付決定になる前に補助対象設備を購入(契約)していると認めてもらえないという点も、一般的な感覚からはズレるところのようです。かなり計画的に進める必要があります。

綿密に計画し、確実に交付決定をゲット。そして正しく活用しよう

さて、これだけ書いてしまうと補助金を申請するモチベーションが下がってしまうと思いますが、上手に活用している事業者は次のポイントを押さえています。

1. 補助金の趣旨と実施する事業の趣旨が一致しているものを使う

 言い換えると「補助金は手段であり、補助金に合わせて事業を組み立てていない」ということです。もともと原型となる事業構想があり、調べてみたら使える補助金があったので使う…という流れで進んだ事業者さんは上手に活用できていることが多く、反対に無理やりストーリーを合わせると、後日トラブルになっているケースを多く耳にします。

2. 補助金がなくても実行できるだけの計画性を持っておく

「たとえ補助金がもらえなくても、この事業(設備投資)は実行する必要があるんだ!」という心づもりで事業計画を作成し、資金計画も立てて、関係機関との調整やリスクの研究を済ませているレベルになってはじめて、有効に活用できるような水準に達せられるようです。反対に、勢いで採択を受けてしまうと、思っていたように機械が動かない、需要が思ったよりもなかった等、かえって不幸な状態になっているケースを多く耳にします。

3. きちんと計画的に使う準備をする

 前述したとおり、補助金の公募開始のタイミングが不明確だったり、補助金が口座に入金されるまで立て替える期間が長期化するケースも多くあることから、補助金を使うにしても、資金繰りなどにはあらかじめ余裕をもって準備を進めておく必要があります。

いかがでしたでしょうか?一言で言うと「かなり計画的に準備&活用する必要がある」ということです。あまり勢いや思いつきで使ってしまうと、いいことがないのが補助金かなと思います。

次回のテーマは「お金を返すのが厳しくなりそう」です。コロナ資金の返済をはじめ、厳しい&難しい相談が増えています。基本的には回避したい内容ですが、万が一そんな状態になったらどう対応すればよいかについて説明します。

「相談窓口 よくあるお悩み相談トップ10」#4 PDCAが回せない(事業計画が進まない)

中小企業診断士の内山です。起業家や経営者の皆さんが訪れる「相談窓口」。みなさんどんな悩みを抱えているのでしょうか?

このコラムでは「よくあるお悩み相談トップ10」として、10位から順番にご紹介しながら、一般的な対応方法についてもご紹介します。

第7位は…「PDCAが回せない(事業計画が進まない)」です!社員さんが10人以上いる経営者から受けることの多いご相談です。業務改善や事業を推進する時の考え方の1つであるPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルが回らないという相談ですね。

事業計画に書く内容は「緊急性は低いが重要なこと」が多い

「経営理念をきっちり言葉にした!販路拡大の戦略も考えた!だけど半年も経過したのに何も進んでいない…」という悩みについて、多くの経営者からご相談を受けます。

経営理念も事業計画も動かなければ「絵に描いた餅」。ダイエットの計画だけ作っても動かなければ痩せないのと同じで、現状に何の変化も起きません。

しかし、こうした悩みを抱える経営者さんは仕事をサボっているのでしょうか?そんなことはありません。事業計画が進まない1つ目の理由はむしろ「日々の日常業務が忙しい」というものです。

事業計画に落とし込む内容というのは、上の図のように緊急度と重要度の2軸で分解すると、基本的には「重要だが緊急でない」ものに分類されることが多いです。

今まで取り組まなくても日々の業務そのものは回っていた訳ですから、やらなくても1日や数週間で具体的な害悪が生じることはありません。

むしろ「緊急度が高い仕事」=すぐ対応しないとお客様に迷惑をかけたり、クレームになったりすることの方が優先度は高いですし、その認識自体は間違っていません。

気づいていただきたいポイントは、

事業計画に載せるような新しい取り組みは「意識的に時間を確保しないと遅々として進まない取り組みになる」

ということです。

対応策としては、難しければ1日10分で実施できることでもかまいません。日々のルーティン業務とは別の時間を設けて、とにかく意志をもってコツコツ進めていくことが大切です。

「誰が、いつまでに、何をするのか」まで落とし込む

事業計画が進まないもう2つ目の理由は「社長がやると思っていた」「いや部長がやると思っていた」「まだ始めなくてよいと思っていた」という役割分担や時間軸が曖昧になっているケースです。

事業計画の推進そのものに賛成だったとしても、日々の日常業務に追われて優先度が下がってしまい「誰かが進めてくれるだろう」と思ってしまう心情は理解できますよね。

対応策としては「誰が、いつまでに、何をするのか」まで計画に落とし込むこと。

これをアクションプランと言ったりするのですが、相談会の時には、次のような表にして落とし込んで、社員全員が見えるところに掲示するようお勧めしています。

とくに「誰が」と「いつまでに」を明確にすることは大切です。基本的にこのポイントを押さえておけば、仮に進まなかったとしても「どうしてできなかったのだろう?」という検証ができるようになります。

振り返り(フィードバック)の場を設ける

事業計画はあくまで計画です。すべてのことが計画通りに進むことはありません。だからこそ振り返り(フィードバック)の場を設けることが大切になります。

この振り返りの場についても、前述のとおり「重要だが緊急ではないこと」になるので、よほど意識していないと実施せずに日々が過ぎて行ってしまいます。

対応策としては、きちんと事業計画を進められている企業の大半が行っていることですが「毎月第3水曜日の16:00から1時間行う」というように事前に予定を固めてしまうことです。司会進行やお決まりの共有or協議事項などは「型」をあらかじめ決めておくと、ストレスなくPDCAを回すことができるようになります。

この時に注意したいポイントは、仮に計画通りに進んでいなかったとしても担当者個人を問い詰めるのではなく「なぜ推進できなかったのだろう?」と皆で対策を考えることが重要という点です。せっかく作った事業計画です。みなでフォローし合って推進したいですね。

いかがでしたでしょうか?次回は第6位「補助金を活用したい」です。補助金と言ってもいろいろな種類がありますが、共通しているポイント、もっというと一般的な感覚と異なる「補助金の世界の常識」のような内容も多くあるので、その点を紹介できればと思います。それではまた次回。

「相談窓口 よくあるお悩み相談トップ10」#3 協力してもらえる取引先を探したい!

中小企業診断士の内山です。起業家や経営者の皆さんが訪れる「相談窓口」。みなさんどんな悩みを抱えているのでしょうか?

このコラムでは「よくあるお悩み相談トップ10」として、10位から順番にご紹介しながら、一般的な対応方法についてもご紹介します。

第8位は…「協力してもらえる取引先を探したい」です!

事業者どうしの連携は、可能性を広げる有効な方法

地域密着型の事業に限らず、互いの足りないところを補い合い一つのプロジェクトに挑戦することは、商売の可能性を広げることはもちろん、地域経済の活性化やお客様にとっても大変喜ばしいことです。農家と飲食店の連携、菓子店とスーパーなど小売店との連携、地元製造業同士で連携しての共同受注、不動産業者と建設業者の連携による空き家の活用など、身近なところでもよく耳にすると思います。

一方で「言うは易し、行うは難し」という言葉もありますが、協力者を見つけられなかったり、見つけられたとしても条件面で折り合わず途中で頓挫してしまったりするケースも少なくありません。

 その一方で、事業者どうしの連携をどんどん進めていく、連携するのが上手な事業者の方もいらっしゃいます。

いったい何がポイントなのでしょうか?

まずは自分がビジョンを描く、自分の役割を示す、そして語る!

事業者どうしの連携を進めていくのが上手な方の共通点は3つあります。

「他の誰でもない、協力関係ができた後の未来の姿=ビジョンを描いていること」

「他の誰でもない、自分自身の役割と協力者にお願いしたい役割を明確に描いていること」

「描いたビジョンを恥じらいなく語ること」

 言い換えれば「達成したいワクワクする未来の姿が見えていない、説明できる形になっていない」「協力をお願いしたい内容が決まっていない、自分の果たす役割を明示できない」「それらの内容を発信していない」場合は、協力者も現れず、なかなか前に進めません。

別に事業計画書を書かなくても大丈夫です。「描く」という言葉を使ったのは、文字だけでなく、図や表や絵で示しても問題ないからです。キレイでなくたってかまいません。伝われば大丈夫です。

ただし、「語る」だけだと難しいです。

理由はすぐに消えてしまって、思考したり共有したりするのにはとても不便だから。

とにかく頭の中でモヤモヤしている構想を書くなり描くなり表現するなり、アウトプットしてみましょう! 自分の役割、誰かに協力を求める役割も見えてきます。協力を依頼された側も理解しやすく、ミスマッチも回避できます。以前のコラム(中小企業診断士うっちーの 「ゼロからできる!事業計画書」 |#4 計画書の「販売先・仕入先」って何を書けばよいの? | I-Port.biz ハジメマシテ、飯田

でご紹介したビジネスモデル図を使って整理するのもよいです。

事業者どうしの連携は、「見える化」が鍵

事業者同士の連携で一番多く相談を受けるトラブルは、残念ながら「言ったor言わない」と「お金」の問題です。

事業をしていれば調子の良い時もあれば悪い時もあります。ずっと右肩上がりで事業が成長し続けることは稀です。

せっかく地域のために、困っているお客さんのためにといった事業でも「納期を守ってくれない、必要な量が揃わない」「家賃の支払いのタイミング」「安価で譲り受けた設備が不調だが対応してくれない」など様々な場面で「言ったor言わない」から始まり「お金」の問題に発展して、事業内容そのものは素晴らしかったのに関係断絶…という状態になった方もしばしばいらっしゃいます。

最初に図や表や絵を描いて視覚的に共有することは、こうしたトラブル回避にも役立ちます。前々回のコラムでも触れましたが、継続的なお金のやり取りが発生するならば契約書を残しておくことも重要です。

ビジョンを描く」ことで、ビジネスを一歩前へ

「アイデアを具体化し思いを伝える、共有する」という攻めの面でも、

「困難な時に思い出す、誤解を解く、ミスマッチを防ぐ」という守りの面でも、

ビジョンを描き、自分の役割を示し、きちんと語ることがまず第一歩。

協力してもらえる取引先を増やし、商売を行ううえで一番大切と言われる「信用」も積み上げていける核となるのは、描いたビジョンにどれだけ信頼性があったり、ワクワクするような魅力に満ちているのか、ということだと思います。

いかがでしたでしょうか?次回は第7位「PDCAが回せない」です。PDCAとはPlan、Do、Check、Actionの略で、業務改善を進めるうえで大切な考え方の1つです。それではまた次回。

「相談窓口 よくあるお悩み相談トップ10」#2 新商品を開発したい!

中小企業診断士の内山です。起業家や経営者の皆さんが訪れる「相談窓口」。みなさんどんな悩みを抱えているのでしょうか?

このコラムでは「よくあるお悩み相談トップ10」として、10位から順番にご紹介しながら、一般的な対応方法についてもご紹介します。

第9位は…「新商品を開発したい」です!

新商品開発は、「お客さん目線」を大切に!

今回のタイトルは「新商品を開発したい」ですが、実際のところ相談に来られる方の大半の状態は「新商品を開発したけれど、どうやって販売すればよいだろうか?」というものです。もう既に、商品そのものは完成している訳です。

 この時に最初にお聞きする質問が「誰のため、何のための商品というイメージを持っていましたか?」ということ。この答えの中に「お客さん目線」が入っていない場合は、残念ながらまず事業として軌道に乗るほど売れるのは難しいです。

 なにを当たり前のことを…と言われてしまいそうですが、地域の相談窓口で相談していると「地域でこの食材が沢山とれるから新商品を開発しよう」とか「当社の技術でこんな強みがあるから商品開発してみた」という考えだけで新商品を開発した、というケースはけっこう多いんです。

 有名なフレームワーク(論理的思考方法)として知られているものの一つに、『3C分析』があります。Company(自社)とCustomer(お客さん)とCompetitor(競合他社)の頭文字をとって3C、この着眼点から先ほどの事例を考えると、3Cのうち1つのCしか考えていないことに気づいてもらえると思います。

もちろん、地域資源の活用や自社の強みの活用も大切です。3Cの1つを構成している訳ですから。光の当て方次第でお客さんのニーズに合致させられる場合もあります。

ただ、せっかく時間とお金と労力をかけて新商品開発を行っていると思いますので、ぜひ最初から3Cの視点、少なくとも「お客さん目線」は頭の片隅に置きながら新商品開発に取り組むことをお勧めしています。

対応策:試してみてから、大きく踏み出す

「そうは言っても、お客さんの反応って実際に売ってみないとわからない」。そんな声も聞こえてきそうです。そんなとき私は、商品・サービスの内容にもよりますが、「試しに売ってみる」という方法をおすすめしています。

飲食業や小売業ならイベントや期間限定で提供するという方法もあるかと思いますし、開発製造そのものに時間とお金が必要な場合には仲間を集めてプロトタイプ機を製造してみるといった方法もあります。すべて自社でリスクを負う必要はないはずです。特段ベンチャー企業などではなく、地方の中小企業や小規模事業者が取り組む場合は「小さく生んで大きく育てる」がセオリーかなと感じています。

設備投資は3年先、5年先を見すえて実施しよう

新商品の開発が完了すると、次に必要なことは量産や事業化のための設備投資です。ところが相談を受けていると、新商品の開発段階で「すでに量産に必要な設備投資を完了させた」というケースを多く耳にします。ちょっとした道具ならともかく、数百万円する機械や製造ライン、中には工場や店舗を新設してしまったなんてケースの相談も多いです。

 設備投資とは言葉の通り「投資」であり、3年先、5年先まで会社に影響を及ぼすことになるものです。

 経営者の方の中には素早く新規事業を立ち上げて2~3年で撤退するスゴ腕の方もいらっしゃいますが、なかなか簡単に真似できるものではありません。新商品に力を入れすぎたために、既存の事業が傾いてしまったというケースの相談にも残念ながら数多く対応しています。

 個人的には、スゴ腕の経営者さんの武勇伝はとても面白くて大好きなのですが、セオリーは「小さく生んで大きく育てる」ということ。お客さん目線を忘れずに、個性豊かで面白い新商品を開発していただければと思います!

いかがでしたでしょうか?次回は第8位「協力してもらえる取引先を探したい」です。

それではまた次回。

「相談窓口 よくあるお悩み相談トップ10」#1 売上を回収したい!

中小企業診断士の内山です。起業家や経営者の皆さんが訪れる「相談窓口」。みなさんどんな悩みを抱えているのでしょうか?

このコラムでは「よくあるお悩み相談トップ10」として、10位から順番にご紹介しながら、一般的な対応方法についてもご紹介します。

第10位は…「売上の回収」です!

売上が回収できないってどういうこと?

正確には「売掛金」と呼ばれるものですが、商売をしていると「納品後〇日以内に支払い」というように、商品・サービスの提供とお金の支払いのタイミングがずれるという場面が数多くあります。たとえば工事代金、ホームページ制作、月謝制のスクールのほか、相手方が事業者だと多くのケースで「月末締翌月末払」といった形での取引が多くなります。

 ここで問題になるのが「期日を過ぎたのにお金が支払われない」「『もうちょっと先延ばしにして』と言われたが、いつまでたっても支払いがない」というケースで、これが今回のお悩み「売上が回収できない」という悩みが生じる原因です。

飲食店や美容室など「サービス提供と支払いがほぼ同時」という商売の場合は特に問題になりませんが、実はこうしたビジネスモデルの方が少数派。たとえば、自動車整備を行なったあとにかかった金額を請求し支払ってもらう、など、サービス提供と支払いにタイムラグがある事業の方が多いのではないでしょうか。

地方で商売をしている身としては、「あまり厳しく催促して相手との関係をこじらせたくない」という意見も多く聞きます。

どうすればよいのでしょうか?

対応策:きちんと書面で伝える、記録を残す

 このような場合、相手方と連絡が取れるようであれば、「とにかく支払い期日を明記した『書面」を取り交わしましょう』とアドバイスしています。相手方に連絡が取れないようであれば、「支払いのお願い(催告書)」といった形で、文書で通知を発送ないし郵便受けに入れておくのが良いでしょう。

実のところ、売上か回収できないと相談に来られる経営者の大半は「口約束」で商売しているため証拠が全く残っていません。催促も電話などの口頭での伝達ばかりで書面に残っていないほか、「〇月〇日の何時に、誰に電話して、どんな話をして、どんな回答があったか」という記録も残っていません。

書面を交わしたり、文書で通知したりすれば、肌感覚ですが相談窓口に来られる方の6~7割くらいの方は売掛金を回収できています。これまで述べた書面を交わす、文書で通知する、記録を残すという方法は、より厳しい方法で回収を進める場合にも必要になります。

回収不能は商売にとって大ダメージ

売上の回収不能は、単に売上が入らなかったと考えがちですが、実は「利益」が丸ごと飛んで行ってしまったのと同じ影響があります。

 たとえば工事代金50万円、材料代や人件費などの経費が40万円、利益10万円の工事代金が回収できなかった場合を考えてみてください。50万円が入金にならないということは、「同じ工事5件分の利益」が消えてなくなってしまったことを意味します。工事5件を受ける労力や手間を考えると、ゾッとしますよね。

 回収作業をしているくらいなら本業のこと、目の前のお客さんのことを考えたいもの。このような状況を作らないためにも、簡単でも良いので、最初から「契約書」を交わすのが吉です。とくに最初に述べたような「商品・サービスの提供とお金の支払いのタイミングがずれる」商売の場合は、契約書を結ぶようにすることをお勧めします。検索サイトで「○○業 契約書 ひな型」といったワードで検索すると、業界団体や士業の方、場合によっては官公庁が示しているひな型が出てきますので、それらをベースにすれば意外と手間もかからずに作成できます。

いかがでしたでしょうか?次回は第9位「新商品を開発したい」です。今回のコラムより前向きな内容になるでしょう。それではまた次回。

M&A支援機関登録のご報告

このたび弊社は中小企業庁が認定しているM&A支援機関に登録されました。地域の事業者の幅広いご相談に対応できるよう、より一層精進してまいります。

大切なことは未来への活用(財務諸表どこを見ている?②損益計算書)

経営者や中間管理職のみなさんから「会社の数字に関することって何を見ているの?」と聞かれるポイントに絞って、徒然なるままに内山の着眼点を紹介しているシリーズの2回目。今回は「損益計算書」です。

損益計算書はその期(通常1年間)の収入と支出の内容を説明している財務諸表です。
前回ご紹介した貸借対照表が期末の一瞬を切り取って表現している財務諸表だったのに対して、損益計算書は「1年間」という期間を表現しているという点が大きく異なります。

とりあえず見ているのは3点!
損益計算書は上から順番にザックリと
 ・売上高
 ・(-)原価
 ・売上高総利益(いわゆる粗利益)
 ・(-)販売費一般管理費
 ・営業利益
 ・(±)営業外損失&利益
 ・経常利益
・・・・・・と続いていきます。「営業利益でみるべきだ」「経常利益が大切だ」「いや粗利益が一番実態を表している」などなど意見は様々ありますが、この答えは会社の規模や状況や業種やビジネスモデル、目指す姿によって様々だと思います。

初見で私がパッと見ているのは次の3点です
①売上高の規模と内訳
 とくに「内訳」は気にしており、記載がなければ大まかでもよいので聞いています。
 内訳の分け方は商品別・顧客別・事業部門別と様々で、相談される会社の状況によって変えています。またヒアリングの際に物凄く熱く語っていただいた商品が実は売上構成の5%で、50%超を締める商品が他にある、そんなこともしばしばあります。
 売上高の規模(スケール)についても、さまざまな部分に影響するところですので気にしています。

②原価のおおよその割合(=変動費率)
 簡単に言ってしまえば商品(1つ、1ロット)をつくるのに材料がザックリ何円くらい必要かというものです。業種によっては「把握していない」と言われるケースも多々あります。把握していなければ把握していないで「把握していないという事実」を把握したという認識で確認しています。
 つまり原価率の良し悪しの話というよりは「原価率を管理しているか否か」を確認させていただいています。※製造業などは材料費だけでなく労務費などもカウントする考え方をとりますが、そのあたりは来月書く予定の「製造原価報告書」のコラムで触れたいと思います。

③人件費と人件費以外の費用
 もう一つ初見で確認しているのは販売費一般管理費のうち「人件費は何円で人件費以外の費用は何円か」という点です。
 多くの経営者の方にとっては「人件費を削る」というのは大変恐ろしいことです。あまり会計のテキストなどでは言われていない区分ですが、人件費かそれ以外かというのは、経営者の方からするとかなり理解しやすく腑に落ちる区分のようです。前向きな話としても用いることのできる考え方で「人件費トータル〇〇万円にするためには売上高の目標を何円にする必要があるか」ということを考える起点としても使えます。もちろん一人当たり売上高などの生産性や人数から逆算した平均給与など、財務以外の会社の実像を把握するのにも便利な分け方だと思っています。
 

損益計算書は過去の結果、大切なのは未来をどうするか

貸借対照表の時にも述べた通り、財務諸表は結果であり、大切なのは「未来をどうするか」です。そういう意味において③で説明したように、単なるダメなところ探しではなく、いいところさがし、さらに一歩進んでリアルな目標設定を設けるための道具として損益計算書を活用したいですね。